ひな祭りとモグサ

 桃の節句まであとわずか。夢恵堂の受付に九谷焼の小さなひな人形を飾りました。桃の節句に飾る菱餅は上から桃色・白・緑色の三色に分かれています。桃色は桃の花の色を、白色はこの頃まだ残る雪を、そして緑色は邪気を払う薬草の蓬(よもぎ)を象徴しています。蓬は古くから邪気を払う薬草として重用されてきました。身近では草餅を作るときに蓬を混ぜるとあの草色に仕上がります。なんとも言えない深みのある草餅の草色は食べる前に眺めるだけで和むものです。

 そんな蓬(よもぎ)は実は艾(もぐさ)の原料でもあります。お灸で使う艾は蓬を精製して作られます。艾は近江の伊吹山が有名ですが、実は江戸時代末の頃には富山県が日本一の艾の産地でした。昭和の中頃まで富山県は艾の一大産地で五箇山、朝日町、そして八尾町で採取製造されていました。平成9年に八尾町の「谷井もぐさ」さんが閉じてからは富山での艾の製造はほとんどありません。現在はほとんどが新潟県で採取され、上越市名立区の佐藤艾工場さんが日本の艾の原料を一手に製造されています。

 ところでコロナウイルスの猛威が世界中を襲っていますが、まずはかからないように免疫力を落とさないこととウイルスに触れない、排除する心がけが必要です。毎日の睡眠を十分にとって、栄養のバランスを考えて食生活に留意すること、過労を避けること、手洗いを励行して、口腔内を清潔に保つことが重要です。さらに自分は鍼灸師なので艾をひねって免疫を高めると言われるお灸を毎日しています。

 日本の艾の質は世界一、中国にも韓国にもこれほど質のいい艾はありません。薬草である蓬を生活の一部に取り入れている日本人の生活を知るにつけ日本に根ざすお灸の文化も絶やすことなく継承していきたいなぁと毎日お灸しながら思う今日この頃です。

参考文献:「艾の産地について」.織田隆三.全日本鍼灸学会誌.49巻3号.1999

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